THEORY / AI AGENTS / LOOP ENGINEERING
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再帰的自己統治アーキテクチャ
五根と五力の二重構造を中核に、AIエージェントの agentic loop、harness、context、eval、governance を一つの再帰的な設計モデルとして整理する。
1. Loop Engineeringとは何か
Loop Engineeringとは、人間がAIエージェントへ一手ずつ指示する代わりに、Agentが目標へ向かって反復できる外側の実行システムを設計する考え方である。単発のPromptの質だけでなく、Goal、Context、Tools、State、Memory、Verification、Stopping Condition、Escalationといった要素を組み合わせ、長時間のAgentic Workflowを収束させる。
典型的なagentic loopは次のように表せる。
Goal ↓ Plan / Decide ↓ Act with Tools ↓ Observe External State ↓ Evaluate / Verify ↓ Update Context & State ↓ Continue / Retry / Escalate / Stop ↺
Prompt Engineeringが「何をどう指示するか」、Context Engineeringが「推論時にどの情報を持たせるか」、Harness Engineeringが「Agentをどの実行環境・制約・ツールで動かすか」に焦点を置くなら、Loop Engineeringはそれらを反復可能な仕事のシステムとしてどう接続するかを扱う。
- Prompt Engineering
- 一回の推論に与える指示の設計。
- Context Engineering
- 限られたcontext windowへ、必要な状態・履歴・資料をどう供給するか。
- Harness Engineering
- Tools、sandbox、permissions、session、handoff、execution controlなどAgentの実行環境を設計する。
- Loop Engineering
- 仕事の発見から実行、検証、状態保存、再実行、停止までを反復システムとして設計する。
2. Loopの外側に残る問題
AIが自分で実行し、結果を評価し、修正し、再実行できるほど、Human-in-the-Loopの仕事は減る。しかし自律性が高まると別の問題が現れる。
ループそのものが間違っていたら、誰が直すのか。
さらに、Loopを統治するルールに欠陥があった場合、Agentがそのルールまで自由に自己変更すると、自己修正と自己権限拡張の境界が消える。
ループを統治するルール自体が間違っていたら、誰が直すのか。
本モデルでは、Loop Engineeringの完成形を Recursive Self-Governance Architecture(再帰的自己統治アーキテクチャ) と定義する。ただし、これはAIが自分のルールを無制限に書き換える仕組みではない。人間由来の統治根拠をRootとして固定し、その内側で観測・改善・探索・実行・自己調整・Governance Learningを再帰的に行う。
3. 37要素の全体構造
この設計を、三十七道品の 4 + 4 + 4 + 5 + 5 + 7 + 8 = 37 という構造を工学的アナロジーとして再構成する。
| Layer | 37-factor mapping | AI / Loop Engineering |
|---|---|---|
| Operational Kernel | 四念処・四正断・四神足 | Observe / Improve / Mobilize |
| Explicit Capability | 五根 | 明示された構造を正しく発見・適用する能力 |
| Autonomy / Robustness | 五力 | 未記述ケースへ自律導出し、外乱下でも能力を維持する力 |
| Adaptive Meta-Control | 七覚支 | Loopの探索性・収束性を動的に調整するMeta-Loop |
| Integrated Governance | 八正道 | Context / Intent / Communication / Action / Loop / Improvement / Observability / Harnessを統合 |
Operational Loop → 五根 → 五力 → 七覚支 → 八正道 → World → Feedback ↺
特に重要なのは、五根と五力を別能力としてではなく、同じ能力の「明示参照」と「自律導出」の二重構造として読む点である。
4. 五根と五力:Explicit ReferenceとAutonomous Derivation
五根 = Explicit Reference Capability
Human、Repository、Harness、Task、観測結果などによって明示された構造を、Agentが正しく発見し、理解し、適用できる能力。
五力 = Autonomous Derivation + Robustness
ケースが明示的に分類されていなくても、同じ基礎構造から必要な適用方法を自分で導き、context drift、failure、resume、外部状態変化などの外乱の中でも能力を維持する力。
根 = 言われた構造を正しく使える
力 = 言われていないケースでも
同じ構造から自分で考えて使える
| 系 | 基礎となる四項 | 根 | 力 |
|---|---|---|---|
| 信 | 四不壊浄 | 明示されたOwner / Policy / Authority / Rulesを参照 | 未記述ケースを4アンカーから原則的に導出 |
| 精進 | 四正断 | 指定された改善モードを実行 | 未分類の問題から必要な改善モードを自律判定 |
| 念 | 四念処 | 指定された観測対象を観測・保持 | 必要なのに指定されていない観測対象を自律発見 |
| 定 | 四禅 | 指定されたHarness・Scope・集中条件で実行 | 外乱下でFocusを回復し、実行を収束 |
| 慧 | 四聖諦 | 与えられたProblem / Cause / Goal / Pathを使用 | 不完全な情報から因果構造を発見・反証・修正 |
この差は、単なる「賢さ」ではない。Humanが毎回ケースを分類しなければならない状態から、Goal / Authority / Boundaryだけを渡し、Agentが自分で必要な観測・改善・判断を組み立てられる状態へ移る境界である。
5. 信:Root of TrustをAgentの外側に置く
信の基礎となる四不壊浄を、組織・サービスのTrust Anchorへ写像する。
| 四不壊浄 | Engineering mapping | 問い |
|---|---|---|
| 仏 | Owner | 誰が最終権限を持つか |
| 法 | Policy | 何を目的・方針とするか |
| 僧 | People / Delegated Authority | 誰が何を決めてよいか |
| 戒 | Operating Rules | どのように行動してよいか |
信根
明示されたCanonical Sourceを見つけ、引用し、正しく適用する。根拠がなければ、都合のよいPolicyを創作せず UNKNOWN と保持する。
信力
直接の文章がなくても、Owner / Policy / Delegated Authority / Operating Rulesから、現在のAuthorityで許される最も狭く一貫した判断を導く。これはPolicy Creationではなく Policy Derivation である。
Human Only Write / Agent Read Only とする。AgentはRead / Cite / Reason / Proposeまではできるが、自分のAuthorityの根拠を自分でCanonical化しない。6. 精進:Improvement Policyを自律選択する
四正断を、Loop Engineeringにおける4種類の改善方向として扱う。
断断 = REMOVE 既存の失敗・欠陥を除去 律儀断 = PREVENT 再発・侵入を防止 随護断 = DEVELOP 必要な能力・観測・仕組みを育てる 修断 = MAINTAIN 良い状態を維持・強化
精進根は、Taskが「Bug Fix」「Regression Prevention」のように明示されているとき、その改善モードを実行する能力である。
精進力は、Issueに「Loginが壊れている」としか書かれていなくても、Agentが調査し、Bugの除去だけでなくRegression Testの追加、Monitoring不足の補完まで必要だと分類できる状態である。
同じFailureを繰り返したとき、単純Retryを続けず、探索戦略の変更、Backoff、Escalationへ切り替えることも精進力に含まれる。
7. 念:Observabilityを指定観測から自律観測へ
四念処を4種類のObservabilityとして扱う。
身 = Repository / Runtime / External State 受 = Outcome / Quality Signal 心 = Agent / Loop State 法 = Policy / Architecture / Causal Model
念根は、Test結果、DB Schema、Retry回数など指定された観測対象を忘れず追跡する能力である。
念力は、指定されていないが現在の判断に必要な観測対象を自分から発見する能力である。UIのFailureを調べる途中でAPI ResponseやDB Migrationへ観測範囲を広げる、といった動作が該当する。
Long-running agentでは、context compaction、session handoff、resume、外部state changeが起きる。念力は、古いMemoryを無条件に信じず、必要な事実を現在のWorld Stateから再検証する力でもある。
8. 定:Harness Engineeringと自己収束能力
定は心理的な「集中力」ではなく、Executionを一つの目的へ収束させる能力として読む。
定根は、明示されたScope、Harness、Tool Limit、Branch Rule、Validation Cadence、Budget、Stop Conditionを守って実行する能力。
定力は、誰も逐次的に指示しなくても、Scope Drift、Tool Churn、Branch Explosion、Excessive Parallelism、Endless Researchを検出し、Working SetやParallelismを縮めてFocusを回復する能力である。
Harness = Agentが走るレール 定根 = 与えられたレールを守る 定力 = 脱線を検知し、自分で収束を回復する
Loop Engineeringでは「動き続けること」よりも「正しい停止条件へ収束すること」が重要であり、定力はInfinite Agentic Loopや無制限なtoken/tool消費を防ぐ中核能力になる。
9. 慧:Causal Model、Discriminating Test、Evals
四聖諦をProblem Solving Modelとして使う。
苦 = Problem / Loss 集 = Cause 滅 = Resolved State 道 = Path / Intervention
慧根は、人間がProblem / Cause / Desired State / Pathを構造化して渡したとき、その因果モデルに沿って介入し、解決状態を検証できる能力。
慧力は、「Signupが減った」のような不完全な観測から候補原因を複数生成し、Discriminating Testで原因を切り分け、Counterevidenceが出たらCausal Modelを更新する能力である。
Evalsはここで単なる採点ではなく、AgentのWorld Modelや介入が正しかったかを判定する外部証拠として機能する。特に長時間ループでは、Happy-pathの最終結果だけでなく、途中のstate transition、regression、cost、termination、escalationも評価対象になる。
10. 七覚支:Adaptive Meta-Control
五力まででAgentはかなり自律的に動ける。しかし、探索が足りないLoopと、探索しすぎて収束しないLoopはどちらも失敗する。七覚支は、Loop全体の状態を見ながら探索と安定を動的に調整する Meta-Control Loop として働く。
| Loop state | 症状 | 強める制御 |
|---|---|---|
| SLUGGISH | 同じFailure、Information Gain不足、仮説固定、行動量不足 | 択法・精進・喜 = Explore / Energize |
| RESTLESS | Scope Expansion、Tool Churn、Branch Explosion、Research過多 | 軽安・定・捨 = Stabilize / Converge |
| BOTH | 状態認識そのものが不足 | 念 = State Estimator |
つまり七覚支は「何をするか」ではなく、Loopをどの状態で回すかを調整する。これはretry policyより一段上の制御であり、Agentic Workflowの探索率、parallelism、verification cadence、context reset、human gateなどを変えるMeta-Controllerに相当する。
11. 八正道:Integrated Governance
八正道では、それまでに分かれていた能力をSystem Architectureとして統合する。
| 八正道 | AI Engineering |
|---|---|
| 正見 | Context / World Model |
| 正思惟 | Intent / Objective |
| 正語 | Communication Edge |
| 正業 | Action Edge |
| 正命 | Persistent Loop |
| 正精進 | Improvement Policy |
| 正念 | Observability |
| 正定 | Harness / Execution Control |
正精進は四正断を全Systemへ、正念は四念処をObservability Architectureへ、正定はHarnessとExecution Controlへ、正見は四聖諦による因果理解をContext / World Modelへ統合する。
ここで「道」が再びLoop全体の実行原理として現れるため、構造は再帰的になる。
12. Rooted Recursive Self-Governance
完成形は、自己改善するLoopを無根拠に自己参照させるのではなく、人間由来のRootへ接続する。
HUMAN
│
Human-authored Root of Trust
Owner / Policy / Authority / Rules
│
Agent Read Only
▼
┌──────────────────┐
│ Operational Loop │
│ Observe │
│ Improve │
│ Mobilize │
└────────┬─────────┘
▼
五根
Explicit Capability
▼
五力
Autonomous Derivation / Robustness
▼
七覚支
Adaptive Meta-Control
▼
八正道
Integrated Governance
▼
World
│
▼
Feedback
│
└──────────────↺
Governance Learningの結果は二つに分ける。
Ordinary Governanceの問題 → Governed Update Root of Trustの問題 → Proposal → Authorized Human → HumanがCanonical Sourceを更新
AIは自己統治する。しかし、自分のAuthorityの根拠そのものは自己生成しない。この「Rooted」という条件が、自律性とHuman Controlを両立させる。
13. Repositoryへの実装
実装では、概念をPromptだけに閉じ込めず、Repository、CI、permissions、tests、state artifactsへ分散させる。
repo/ ├── AGENTS.md ├── docs/ │ └── agent-governance/ │ ├── manifest.json │ ├── constitution.md │ ├── faith/ │ │ ├── owner.md │ │ ├── policy.md │ │ ├── authority.md │ │ └── operations.md │ ├── proposals/ │ └── run-record.json ├── .agents/skills/ ├── tests/ └── .github/workflows/
ただし、既存のCompany Policy、ADR、Permission MatrixなどがCanonicalならコピーしない。Manifestから参照し、Source of Truthを増殖させない。
AGENTS.md = Map / discovery surface Existing Canonical Docs = Source of Truth Tests / IAM / CI = Enforcement Run records / state = Durable memory & evidence
Loop Engineeringの観点では、Trigger、Goal、State、Tools、Verification、Stop Condition、Human Gateを明示し、Recursive Governanceの観点では、それらを変更できるAuthorityと変更手続きを別レイヤーに置く。
本モデルの実装例はGitHubの recursive-governance-37 で公開している。
14. 自律性をどう評価するか:五力はStress Testで測る
Repository内の各37因子は、例えば次の状態で評価できる。
SATISFIED PARTIAL MISSING UNKNOWN N/A
重要なのは、五根と五力を必ず別評価することである。
念根 = SATISFIED 念力 = PARTIAL → 指定された状態は追跡できるが、必要な未指定観測の発見は弱い 慧根 = SATISFIED 慧力 = MISSING → 与えられたRoot Causeは扱えるが、自分でCauseを発見できない
五力はHappy-path testだけでは測れない。あえて外乱を入れる。
- Instructionを一部省く。
- Conflicting contextを入れる。
- 途中でcontext reset / resumeする。
- Failureを繰り返す。
- Scope distractionを与える。
- Causal ambiguityを残す。
- 外部stateを途中で変化させる。
ここで観測するのは「正解を出したか」だけではない。未指定観測を発見したか、誤ったmemoryを再検証したか、同じretryを止めたか、scopeを自分で回復したか、unknownを保持したか、human gateへ適切にEscalateしたかを見る。
15. Human-in-the-LoopからHuman-on-the-Loopへ
五根の段階では、Humanがケースを分類してAgentへ渡す必要がある。
Human ↓ 分類・指示 ↓ Agent ↓ 実行
五力が実証されると、HumanはGoal、Authority、Boundaryを定義し、Agentが分類そのものを担える。
Human ↓ Goal / Authority / Boundary ↓ Agent ├─ 状況を観測 ├─ 必要なframeworkを選択 ├─ 未記述ケースを導出 ├─ 外乱に耐える ├─ 自分のLoopを調整 └─ 必要ならHumanへEscalate
したがってHuman-on-the-Loopへ移行できるかどうかは、「AIが機能を持っているか」ではなく、五力がStress Testで実証されているかで判断すべきである。
16. ループエンジニアリングの完成形
自律性とは、Agentが単独でActionできることではない。
Observe ↓ Improve ↓ Mobilize ↓ Explicit Capability / 五根 ↓ Autonomous Derivation & Robustness / 五力 ↓ Adaptive Meta-Control / 七覚支 ↓ Integrated Governance / 八正道 ↓ World ↓ Feedback ↺
そして、その循環は人間が定めたRoot of Trustに根づく。
人間がすべてを逐次指示することでも、AIにすべてを任せることでもない。
HumanはAuthorityと基本原則を定める。Agentは明示された構造を五根として使い、それを五力として未記述の状況へ自律的に展開する。七覚支によって自分のLoopを調整し、八正道によって全体を統合する。
このときHumanは逐次作業のCoachから、Root of Trustと外部Feedbackを担うGovernorへ移る。これを、Loop Engineeringの完成形としての再帰的自己統治アーキテクチャと呼ぶ。
FAQ
Loop Engineeringとは何ですか?
AIエージェントへ人間が毎ターン指示する代わりに、Goal、Context、Tools、State、Verification、Stopping Condition、Feedbackを含む反復システムを設計する考え方です。Agentが自律的にAct / Observe / Evaluate / Iterateし、終了条件へ収束できることを目指します。
Prompt EngineeringやContext Engineeringと何が違いますか?
Prompt Engineeringは主に指示文、Context Engineeringは推論時に供給する情報、Harness Engineeringは実行環境と制御を設計します。Loop Engineeringはそれらを含め、仕事を反復・検証・継続・停止する外側のシステムを設計します。
再帰的自己統治アーキテクチャとは何ですか?
AgentがTaskだけでなく、自分のLoopの状態・失敗・探索量・収束性も観測し、必要ならLoop自体を調整できる設計です。ただし、Authorityの根拠となるRoot of TrustはHumanが保持します。
AI自身がPolicyや権限を書き換えてよいですか?
本モデルでは不可です。AgentはCanonical Policyを読み、未記述ケースを原則から導出し、変更Proposalを作れますが、Root of TrustのCanonical UpdateはAuthorized Humanが行います。
五根と五力の違いは何ですか?
五根は「明示された構造を正しく使う能力」、五力は「明示されていないケースでも同じ構造から自分で適用方法を導き、外乱下でも維持する力」です。自律性の評価ではこの二つを分けて測ります。
関連資料と理論ソース
- Recursive Governance 37 — reference implementation / source theory
- IBM: What is loop engineering?
- Anthropic: Effective context engineering for AI agents
- Anthropic: Harness design for long-running application development
- Anthropic: Demystifying evals for AI agents
- OpenAI: A practical guide to building AI agents
注記
本稿は三十七道品を自律Agent / Software Governanceの設計モデルとして再構成した工学的アナロジーであり、仏教教理そのものとの同一性を主張するものではない。
特に、五根 = Explicit Reference Capability、五力 = Autonomous Derivation + Robustness、ならびに信・精進・念・定・慧を各4項の工学モデルへ対応づける構造は、本モデル独自の定義である。
仏教側では、四念処についてMN 10 / DN 22、五根についてSN 48.10、五根と五力の関係についてSN 48.43、七覚支についてSN 46系、八正道についてSN 45.8 / MN 117、四聖諦についてSN 56.11、四不壊浄についてSN 55系を主要な参照点とする。